ピーター・ゼイハン氏の警告、グローバル化の終焉(しゅうえん)と日本の問題

ピーター・ゼイハン氏は、地政学と人口動態の専門家であり、著書「『世界の終わり』の地政学」(上下巻、集英社)で世界的な注目を集めました。彼の分析は、地政学的な要因と人口動態の変化が、今後の世界のあり方を大きく左右するというものです。
◎ピーター・ゼイハン氏とは?
ピーター・ゼイハン氏は、地政学を専門とするコンサルタントで、ゼイハン地政学社(Zeihan on Geopolitics)の社長です。情報機関ストラトフォーで12年間勤務し、分析部門のバイス・プレジデントまで上り詰めた経験があります。エネルギー大手企業、金融機関から米軍まで、幅広い分野のクライアントを抱えています。
◎グローバル経済縮小の背景
ゼイハン氏は、世界的な高齢化と人口減少が、グローバル経済の縮小を引き起こすと指摘しています。高齢化が進むと、労働力不足、消費の減少、社会保障費の増大などが起こり、経済成長を阻害します。また、人口減少は、国内市場の縮小、イノベーションの停滞などを招き、経済の活力を失わせます。
さらに、グローバル経済の縮小を加速させる要因として、米国の保護主義的な政策、米中対立、ロシア・ウクライナ戦争などは、貿易や投資の障壁となり、グローバルサプライチェーンを混乱させます。これらの要因が複合的に作用し、グローバル経済は縮小に向かうとゼイハン氏は予測しています。
◎日本が抱える大きな問題
日本は、資源や食料の多くを輸入に頼っているため、グローバル経済の縮小は深刻な影響を与えます。輸入価格の高騰、輸入量の減少などは、日本の経済を直撃し、国民生活を圧迫します。また、輸出依存度の高い日本経済は、世界的な需要の減少にも脆弱です。
さらに、日本の人口減少と高齢化は、世界でもトップレベルのスピードで進んでいます。労働力不足、社会保障費の増大などは、日本の財政を圧迫し、経済の活力を失わせます。これらの要因が複合的に作用し、日本は10年後、20年後に大きな問題を抱えることになるとゼイハン氏は警告しています。
◎日本が持つリソース
しかし、ゼイハン氏は、日本がこれらの危機を乗り越えるためのリソースを持っていると指摘しています。日本は、高齢化社会への対応を長年進めており、社会保障制度、医療技術、介護技術などは世界的に見ても高い水準にあります。これらの技術やノウハウを輸出することで、新たな成長産業を生み出すことも可能です。
また、日本は、高い技術力、勤勉な国民性、安定した社会など、多くの強みを持っています。これらの強みを活かし、新たな産業を創出したり、国内市場を活性化したりすることで、グローバル経済の縮小に対応することが、可能ではないかと見ています。
◎米国トランプ政権の今後
ゼイハン氏は、トランプ氏の再選は、米国の政治をさらに不安定化させると予測しています。トランプ氏の保護主義的な政策、同盟国との摩擦などは、米国の国際的な影響力を低下させ、世界の分断を加速させます。また、トランプ氏の年齢的な問題や政権を補佐する幹部の経験不足も、政権運営に不安を残し難しい状況になると見ています。
◎中国の行方
政治、経済、軍事と各方面で大きな存在感を示す中国については、急速な高齢化と政治体制の脆弱性を指摘しています。中国経済は、輸出と投資に依存しており、世界的な需要の減少や米中対立の影響を受けやすくなっています。また、中国の政治体制は、情報統制や言論統制によって維持されており、社会の不満が高まると内部崩壊する可能性もあると見ています。
◎日本が取るべき道
中国に大きな変化が起きた場合、日本は地理的に近いのでリスクに備える必要があります。
今後10年、20年後に難民の流入、貿易の混乱、軍事的な緊張などが起こる可能性があります。日本は、これらのリスクに備え、独自の外交・安全保障政策を確立する必要があるでしょう。
具体的には、以下のような対策が考えられます。
- 食料・エネルギー安全保障の強化
国内生産の拡大、備蓄の増加、輸入先の多様化などを進める。 - 産業構造の転換
国内市場向けの産業育成、高付加価値産業へのシフト、デジタル技術の活用などを進める。 - 社会保障制度の改革
持続可能な社会保障制度を構築し、高齢者や女性の就労を促進する。 - 外交・安全保障政策の強化
米国との同盟関係を維持しつつ、独自の外交を展開し、近隣諸国との関係を強化する。 - 中国の変化への備え
中国の政治体制の変化を注視し、難民対策、貿易対策、軍事対策などを準備する。
これらの対策を講じることで、日本はグローバル化の終焉(しゅうえん)という大きな変化に対応し、持続可能な発展を遂げることができるのではないでしょうか。
◎まとめ
ゼイハン氏の分析は、あくまで一つの予測であり、未来は不確実です。しかし、彼の警告は、日本が将来に向けて備えるべき重要な課題を示唆しています。
<語意>
(1)バイスプレジデント(VP)とは、
企業の役職のひとつで、副社長や部長、次長などのポジションを指します。
主に米国系の企業で使われていますが、業種や企業によって役割が異なります。
(2)イノベーションとは、
革新や刷新、新機軸などを意味する言葉で、新しい価値を生み出す取り組みを指します。
(3)グローバルサプライチェーンとは、
製品やサービスが消費者に届くまでの供給プロセスを、国内外で効率的に管理する仕組みです。
(4)ビジネスにおけるリソースとは、
企業の運営に必要な人材や設備、資金、情報、時間、知的財産などの資源全般を指します。
英語の「resource」が語源で、「経営資源」とも呼ばれます。
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