「米子ー台北」直行便を活かした、台湾からの山陰への誘客促進戦略

2025年6月7日

 この度、待望の「米子ー台北」間の国際定期航空便が就航し、山陰両県にとって台湾からのインバウンド誘致を一層加速させる絶好の機会が到来しました。この「大動脈」を最大限に活用し、台湾における両県の観光需要をさらに掘り起こすための具体的な施策を、調査結果と私自身の考察を交えながらご提案させていただきます。

1. 現状認識と台湾市場のポテンシャル

 既に台湾は山陰両県にとって国・地域別で最大のインバウンド市場であり、今回の直行便就航はその流れをさらに強固なものにする起爆剤となり得ます。しかしながら、「タイガーエア台湾」の黄世惠董事長が指摘するように、「台湾の人は、鳥取県・島根県のことをまだそんなに知らない」という現状認識は重く受け止めるべきです。これは裏を返せば、未だ開拓の余地が大きい、伸びしろのある市場であるとも言えるのではないでしょうか。

調査で明らかになった台湾人観光客の特性は、今後の戦略を練る上で極めて重要な示唆を与えてくれています。

  • キーワード
    「一人旅」「歴史・文化」「出雲大社」
  • 訪問者の特性
    3分の1が「一人旅」
  • 訪問動機
    「日本の歴史・文化を体感できる」(香港と比較して顕著に高い関心)
  • 人気訪問先
    出雲大社(74%)、鳥取砂丘(63%)、松江城(55%)、出雲そば(44%)
  • 満足度の高いコンテンツ
    出雲大社(96%満足)、足立美術館(台湾31%訪問、96%満足)

これらのデータは、私たちがアピールすべきターゲット層とコンテンツの方向性を明確に示していると思います。

2. ターゲット層の明確化とアピールポイント

 今回の調査結果を踏まえ、メインターゲットとして「歴史・文化に関心の高い、知的で好奇心旺盛な台湾の一人旅層」を据えるべきと考えます。この層は、団体旅行では得られない自由な探訪や、深い文化体験を求めていると推察しています。

アピールポイントは、単なる観光地の紹介に留まらず、「本物の日本文化と出会い、自分と向き合う静かで豊かな時間」を提供できるデスティネーション「destination」としての山陰の魅力を打ち出すことだと考えます。

3. 具体的な需要掘り起こし施策

 上記のターゲット層とアピールポイントに基づき、以下の具体的な施策を提案します。

施策1
テーマ性を追求した魅力的な周遊プランの作成と発信強化

  • (1) 「縁結び」テーマの進化と深化
    調査で有望視されている「縁結び」のテーマは、単に神社を巡るだけでなく、より深い体験とストーリー性を持たせることでアピール力を高めます。
    • 「ご縁を紡ぐ、自分探しの旅」
       八重垣神社、熊野大社、美保神社に加え、各神社の由緒や神話、周辺の自然景観を結びつけたストーリー性のある周遊ルートを作成。例えば、古事記に登場する神々の物語を辿るルートや、縁結びにまつわる地域の食文化(例:出雲そば、ぜんざい)や伝統工芸(例:勾玉作り体験)を組み込んだ体験型プランを開発します。
    • 一人旅向けコンテンツの充実
       お守り作り体験、宮司による講話、瞑想体験など、一人でも気軽に参加でき、内省(ないせい)を促すようなプログラムを導入します。
    • プロモーション
       台湾で人気の占い師やスピリチュアル系インフルエンサーとタイアップし、「山陰の聖地で運気を高める旅」といった切り口で発信してはどうでしょう。
  • (2) 「歴史・文化探訪」の質の向上と多様化
    台湾人観光客の歴史・文化への高い関心に応えるため、より専門的で満足度の高いプログラムを提供します。
    • 「山陰歴史回廊」プラン
       出雲大社、松江城に加え、たたら製鉄の歴史を学べる奥出雲地方(例:菅谷たたら山内)、石見銀山遺跡(世界遺産)といった歴史的価値の高いスポットを組み合わせ、専門ガイド付きのツアーを企画します。日本語だけでなく、繁体字中国語に対応できる質の高いガイドの育成・確保が急務です。
    • 文化体験の拡充
       和紙すき、陶芸、茶道、華道、神楽鑑賞・体験など、日本ならではの伝統文化に触れる機会を増やし、予約システムを整備します。特に「一人旅」でも参加しやすい少人数制のワークショップを推奨します。
    • 情報発信
       台湾の歴史愛好家コミュニティやカルチャー系雑誌、オンラインメディアに対し、山陰の歴史的背景や文化財の学術的価値を含めた情報提供を強化します。
  • (3) 「足立美術館」を核とした高付加価値アートツーリズムの推進
    訪問率はまだ低いものの、極めて高い満足度を誇る足立美術館は、潜在的なキラーコンテンツです。
    • 「美意識を磨く、山陰アート紀行」
       足立美術館の日本庭園や横山大観コレクションに加え、周辺の美術館(例:植田正治写真美術館)、工芸館、美しい景観を持つ温泉地(例:玉造温泉、皆生温泉)などを組み合わせ、上質で静かな時間を過ごせる大人向けのツアーを造成します。
    • ターゲットを絞ったプロモーション
       台湾の美術愛好家、富裕層、庭園に関心のある層に対し、専門誌やライフスタイル誌、美術系オンラインプラットフォームを通じて、その質の高さをアピールします。「タイガーエア台湾」との連携で、ビジネスクラス利用者向けの特典付きパッケージなどを検討します。

施策2
戦略的なプロモーションと情報発信

  • (1) デジタルマーケティングの強化
    • 台湾の主要SNSプラットフォームの活用
       Facebook、Instagramに加え、台湾で人気のブログプラットフォーム(例:PIXNET痞客邦)や旅行コミュニティ(例:背包客棧)での情報発信を強化する。ターゲット層に響く美しい写真や動画コンテンツ、体験談を重視します。
    • インフルエンサーマーケティングの戦略的活用
       「一人旅」「歴史・文化」「アート」といったテーマに合致する台湾人インフルエンサーを招待し、彼らの視点から山陰の魅力を発信してもらいます。短期的な話題性だけでなく、継続的な情報発信をしてくれるパートナーシップを重視します。
    • 繁体字中国語による公式情報サイトの充実
       観光情報だけでなく、交通アクセス、宿泊施設の予約方法、モデルコース、Q&Aなど、個人旅行者が必要とする情報を網羅的かつ分かりやすく提供します。オンライン予約システムとの連携も強化します。
    • 動画コンテンツの活用
       山陰の美しい四季の映像、文化体験の様子、一人旅の魅力を伝える短編動画などを制作し、YouTubeやSNSで配信します。
  • (2) 航空会社・旅行会社との連携強化
    • 「タイガーエア台湾」との共同プロモーション
       機内誌への広告掲載、機内でのPR動画放映、台北の空港カウンターでのパンフレット配布など。共同でのパッケージツアー造成やキャンペーン実施を継続的に行います。
    • 台湾の旅行会社への営業強化
       山陰の新しい周遊プランや体験型コンテンツを積極的に提案し、商品化を働きかけます。ファムトリップ(視察旅行)の機会を増やし、実際に魅力を体感してもらうことが重要です。
    • OTA(Online Travel Agent)との連携
       台湾の主要OTA(例:KKday、KLOOK)と連携し、山陰の体験型アクティビティや周遊パスなどの販売を促進します。

施策3
受け入れ態勢の整備とおもてなしの向上

  • (1) 多言語対応の強化
    特に繁体字中国語の案内表示、パンフレット、ウェブサイトの充実。主要観光施設、交通機関、宿泊施設での翻訳ツールの導入支援や、語学研修の機会提供。
  • (2) 二次交通の利便性向上
     「一人旅」や個人旅行者が周遊しやすいよう、公共交通機関の情報を分かりやすく提供(多言語対応の路線図、時刻表アプリなど)。観光地周遊バスの運行本数増加やルート改善、割安な周遊パスの販売、レンタサイクルや観光タクシーの利用促進。
  • (3) 一人旅フレンドリーな環境づくり
    一人でも利用しやすい宿泊施設(シングルルームの充実、女性専用フロアなど)や飲食店(カウンター席のある店、一人鍋や定食メニューが豊富な店など)の情報を集約し、発信します。
  • (4) 満足度向上とリピーター化のための仕組みづくり
    訪問者へのアンケート調査を継続的に実施し、ニーズや改善点を把握。帰国後のアンケートで意見を収集し、次回のプロモーションや商品開発に活かします。リピーター向けの特典プログラムや、季節ごとの情報発信(メールマガジンなど)も検討します。

4. まとめ

 「米子ー台北」直行便の就航は、山陰両県にとって台湾市場をさらに深く開拓する千載一遇のチャンスです。調査結果から見えてくる「一人旅」「歴史・文化」「出雲大社」といったキーワード、そして「縁結び」や「足立美術館」のような高いポテンシャルを持つコンテンツを戦略的に磨き上げ、ターゲット層に的確に訴求することで、必ずや新たな需要を掘り起こせると確信しています。

重要なのは、一過性のブームで終わらせず、持続的な誘客につなげることです。そのためには、関係機関が一丸となり、質の高い情報発信、魅力的なコンテンツ造成、そして温かいおもてなしの心を持って台湾からのお客様をお迎えする体制を構築していく必要があります。

<言意>

 主に「目的地」「行き先」という意味で使われます。旅行の目的地や、荷物の送付先など、到達点や目標を指す場合に用いられます。

 Online Travel Agentの略で、インターネット上で旅行関連サービスを提供する旅行会社のことです。

 占い、心霊現象、前世、陰謀論などを信じ、それらに深く関わる人々を指します。