インフルエンザに「かかりやすい人」と「かかりにくい人」その差は唾液にあり

2023年10月7日

インフルエンザ感染の「かかりやすさ」には、唾液の特性が関連していることが「花王の研究チーム」の研究で明らかになっています。
新型コロナウイルス感染症が依然として拡大の一途をたどるなか、季節外れのインフルエンザ感染が増加しており、これにより学級閉鎖や社会的影響が拡大しています。
この状況下で、インフルエンザ感染を防ぐための情報は非常に重要です。

○まず、インフルエンザ感染の拡大傾向について考えてみます。

新型コロナウイルス感染が続いている中、季節外れのインフルエンザ感染が増加しています。
この二つの感染症が同時に発症する「ダブル感染」のケースも報告され、その致死率が高いことから、感染予防がますます重要視されています。
感染拡大を防ぐためには、公共の場ではマスクの着用が必要であり、家庭では手洗い、うがい、換気が大切です。

厚生労働省のデータによれば、日本国内で季節性インフルエンザの感染者数は年間約1000万人と推定され、10人に1人が感染するとされています。
これはかなりの数であり、感染拡大を抑えるためには、予防策が不可欠です。

○続いて、インフルエンザ感染における「かかりやすい人」と「かかりにくい人」の違いについて説明します。

最近の研究では、インフルエンザ感染に「かかりやすい人」と「かかりにくい人」の唾液を比較することで、その差異が浮き彫りにされました。
具体的には、109人の被験者から唾液を採取し、その唾液の分泌量を比較しました。その結果、インフルエンザにかかりやすい人は、かかりにくい人に比べて、有意に唾液の分泌量が少ないことが示されました。
つまり、唾液の量が多いほど、インフルエンザにかかりにくい可能性が高いということです。

また、唾液の中には「ほとんど感染を起こさない唾液」と「多くの細胞が感染してしまう唾液」があることも明らかになりました。
このことから、唾液の質にも個人差がある可能性が浮上しました。

花王の研究チーム」による研究では、かかりにくい人とかかりやすい人の唾液に違いがあることが発見され、特に「唾液の質」がインフルエンザ感染に影響を与える可能性が示唆されました。
唾液の中には抗インフルエンザ活性の低い唾液と、活性が高い「質のよい唾液」が含まれており、これらの成分がインフルエンザウイルスの防御に寄与する可能性があるということです。

○次に、インフルエンザウイルスの感染経路について考えてみます。

インフルエンザウイルスの粒子表面には、2種類の突起物(スパイク)のようなタンパク質が多くあり、このスパイク状のタンパク質の1つが、宿主(ヒト)の細胞表面に吸着し、ウイルスが細胞内へ侵入する際のキーとなります。
その後、ウイルスは細胞内で増殖し、もう1つのスパイク状タンパク質が、細胞表面のシアル酸を分解して細胞外に出ていき、感染が他の細胞へと広がっていくのです。
この感染経路を理解することは、感染拡大の予防に役立ちます。

○そして、最も注目すべきは、唾液の中に含まれる成分の特性です。

約40種類の成分が含まれている唾液の中で、特に「結合型シアル酸」の量が感染を抑制する重要な要素であることが明らかになりました。
抗インフルエンザ効果の高い「質の良い唾液」には、糖タンパク質と結合したシアル酸が多く含まれており、これが感染拡大を防ぐ一助となるそうです。

○さらに、唾液の出所にも注目が必要です。

唾液を生成する器官である「唾液腺」の中でも、耳下腺(じかせん)、顎下腺(がっかせん)、舌下腺(ぜっかせん)と呼ばれる三大唾液腺が重要な役割を果しているそうです。
これらの唾液腺から出る唾液の特性には違いがあるそうです。特に、舌下腺や顎下腺から出る唾液は、耳下腺唾液に比べて結合型シアル酸が約2倍多く含まれていることが明らかになりました。
舌下腺や顎下腺から出る唾液はもともと粘性が高く、口腔や上気道の粘膜を保護する役割があると考えられています。
唾液の中でも「舌下線・顎下腺唾液」を選択的に増やすことが、最も効果が高いと分かってきました。したがって、これらの唾液腺から出る唾液は、インフルエンザウイルス感染を抑制するのに効果的であると言えます。
一般的には、唾液の分泌量はリラックスした状態、すなわち副交感神経が優位のときに増えます。また、唾液腺のマッサージによっても分泌が促進できることが知られています。

唾液の質を向上させるためにはどのような方法があるでしょうか?

花王の研究チーム」は、クエン酸(酸味)、グルタミン酸ナトリウム(旨味)、塩化ナトリウム(塩味)、アスパルテーム(甘味)の成分を検討し、それぞれを口に含んだ際の唾液の量と質を比較しました。
その結果、旨味、塩味、甘味では「舌下線・顎下腺唾液」の割合が高いことが分かりました。しかし、これらの成分は唾液の量自体は多くないことが示されました。
一方で、新たに検討に加えた、炭酸水素ナトリウム(重曹)とクエン酸の組み合わせでは「舌下線・顎下腺唾液」の割合が高く、かつ唾液の量も増加することが分かりました。
つまり、重曹とクエン酸を組み合わせることで、質と量の両方に優れた唾液を生成する可能性があることが示唆されました。

最も肝心なのは、この重曹とクエン酸の組み合わせによる刺激が唾液の「抗インフルエンザ効果」を高めるかどうかです。

実験では、「重曹+クエン酸」で刺激した唾液と、同じ量の安静時の唾液をA型インフルエンザウイルスと混合し、培養細胞に感染させました。
その結果、安静時の唾液は感染を21%抑制したのに対し、「重曹+クエン酸」で刺激した唾液は64%まで感染を抑制しました。
このことから、口の中で「唾液の質」と「唾液の量」を同時に高めることで、インフルエンザの感染リスクを低減できる可能性が示されました。

○最後に、この情報を実際の予防策としてどのように活用できるか考えてみます。

重曹とクエン酸の組み合わせを含む刺激を唾液腺に与えることで、唾液の質と量を向上させることができます。
この方法は手軽に実践でき、場所を選ばずに行えるため、例えば電車内などの人混みでも効果的です。
これにより、感染拡大を防ぐ「上気道バリア機能」を強化し、体を感染から守ることができます。

誤解の無いようにご注意

なお、既存の予防法を否定するものではないことは重ねて強調しておきます。
厚生労働省やアメリカ疾病管理センター(CDC)が科学的な根拠があるものとして、ワクチンの接種、手洗い、咳エチケット(咳やくしゃみをする際に、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖を使って、口や鼻をおさえること)を推奨しています。

○まとめ

要するに、インフルエンザ感染を予防するためには唾液の質と量を向上させる方法が重要であり、そのためには重曹とクエン酸の組み合わせなどの対策が有効であることが示されました。
感染予防において、唾液の役割が明らかになることは、新たな視点からの予防策の提案となります。

花王の研究チーム」のインフルエンザの脅威から頑張る人を守りたい、そんな願いを発端に「上気道バリア機能」に着眼した一連の研究。
その成果が、あなたをインフルエンザから守ってくれる日がきっと訪れることでしょう。

尚、この記事は、花王健康科学研究会の「花王の顔」Webページを参考にさせていただきました。

健康

Posted by Ka Shiba