深刻なサイバー攻撃の被害に対する「能動的サイバー防御」の必要性とプライバシー保護のバランス

2025年1月11日

 近年、サイバー攻撃は国家の安全保障、経済活動、そして日常生活に深刻な影響を及ぼす脅威として増大しています。24年末に発生した日航の事例は、一企業のシステム障害が広範囲に影響を及ぼし、社会全体に混乱をもたらす可能性を示しました。
これは氷山の一角であり、政府機関や重要インフラを標的としたサイバー攻撃は、国家の存立基盤を揺るがす事態に発展しかねません。

 サイバー攻撃の深刻さを改めて認識し、「能動的サイバー防御」の法制化における課題、特にプライバシー保護の観点から考察し、最後に独立した監督機関の必要性についてお話しさせていただきます。

1. サイバー攻撃の被害の深刻さ

 サイバー攻撃は、単なるデータ漏洩やシステムダウンに留まらず、社会インフラの停止、経済活動の麻痺、国家安全保障の危機に直結する可能性があります。日航の事例では、手荷物預かりシステムの不具合が国内外の便に遅延をもたらしましたが、これが電力、水道、交通などの重要インフラで発生した場合、その影響は計り知れません。また、企業がサイバー攻撃を受け、顧客情報や機密情報が漏洩した場合、企業の信用失墜、巨額の損害賠償、事業継続の危機に繋がります。
国家レベルでは、重要情報の窃取、政府機関の機能停止、世論操作などを目的としたサイバー攻撃が行われており、国家間の緊張を高める要因ともなっています。

 さらに、サイバー攻撃の手法は高度化、巧妙化の一途をたどっており、従来の防御策では対応が困難なケースが増えています。AIや機械学習の悪用、サプライチェーン攻撃DDoS攻撃ゼロデイ攻撃など、新たな脅威が次々と出現しており、常に最新の防御技術と情報収集が求められます。
このように、サイバー攻撃は社会全体に深刻な影響を及ぼす可能性があり、その対策は緊急を要する課題と言えるでしょう。

2. 「能動的サイバー防御」の法制化

 従来のサイバー防御は、攻撃を受けてから対処する「事後対応型」が主流でしたが、被害を最小限に抑えるためには、攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入が不可欠です。
政府の有識者会議が提言した「能動的サイバー防御」は、攻撃側のサーバーに侵入し、無害化する権限を政府に与えるというもので、サイバー攻撃に対する新たなアプローチとして注目されています。

しかし、「能動的サイバー防御」は、他国のサーバーに侵入するという性質上、国際法との整合性、外交問題、誤認攻撃のリスクなど、多くの課題を抱えています。また、国内法においても、通信の秘密を保障する憲法との関係が重要な論点となります。これらの課題をクリアし、国民の理解を得ながら法制化を進めるためには、慎重な議論と透明性の確保が不可欠です。
 しかし、現に国際法など無視してサイバー攻撃を仕掛けてくる、中国、ロシアや北朝鮮など他国からの脅威を受け身の防戦だけでは、日本は壊滅的な打撃を受けることになります。早急に法制化に向けた対策を講じなければなりません。

3. 法制化の焦点はプライバシーの配慮

 「能動的サイバー防御」の法制化において、最も重要な焦点の一つがプライバシーの配慮です。攻撃を未然に防ぐためには、通信情報の収集・分析が不可欠となりますが、これは国民のプライバシーを侵害する可能性を孕(はら)んでいます。特に、一般市民の通信情報を広く集めることは、監視社会への繋がりかねず、国民の自由と権利を著しく損なう可能性があります。

残念ながら、法を守らない覇権主義的な国家と違い、日本は法を遵守する民主主義国家です。

 したがって、法制化にあたっては、「通信の秘密」を定めた憲法を遵守し、プライバシー保護のための厳格なルールを設ける必要があります。
情報の収集範囲、利用目的、保管期間などを明確に規定し、濫用(らんよう)を防ぐための措置を講じなければなりません。また、情報収集の必要性とプライバシー保護のバランスをどのように取るのか、国民的な議論を深めることが重要です。

 情報収集の対象は、明確なサイバー攻撃の兆候が認められる場合に限定し、一般市民の無差別な情報収集は慎むべきです。また、収集した情報は厳重に管理し、目的外利用を禁止し、透明性を確保する必要があります。

法を守らない覇権主義的な国家と違い、日本は法を遵守する民主主義国家ですから。
しかし、残念ながらそのことを逆手に取って攻撃を仕掛けてくるのが、国際法など守らない覇権主義的な国なのです。

4. 強い権限と独立性を持った監督機関が必要

 「能動的サイバー防御」の運用において、政府による恣意(しい)的な情報収集や濫用を防ぐためには、強い権限と独立性を持った監督機関の設置が不可欠です。この監督機関は、情報の取得・分析プロセスを監視し、法令違反がないかチェックする役割を担います。
原子力規制委員会や公正取引委員会のように、政府から独立した組織として、強い権限と専門性を持つことが求められます。

 具体的には、監督機関は情報収集の必要性、範囲、方法などを事前に審査し、不当な情報収集を阻止する権限を持つべきです。また、情報利用状況の監査、法令違反に対する是正勧告、場合によっては告発を行う権限も必要です。さらに、監督機関の構成員は、法律、情報技術、倫理などの専門家で構成され、高度な専門性と倫理観を持つことが求められます。
監督機関の委員は、国会が任命し、政府からの独立性を確保する仕組みが望ましいと考えます。また、定期的に国民に対して活動状況を報告し、透明性を確保することで、国民の信頼を得ることが重要です。

まとめ

 サイバー攻撃は現代社会において深刻な脅威であり、「能動的サイバー防御」は有効な対策の一つとなり得ます。しかし、法制化にあたっては、プライバシー保護とのバランスを十分に考慮し、国民の理解を得ながら進める必要があります。そのためには、情報収集の範囲と方法を厳格に規定し、強い権限と独立性を持った監督機関を設置することが不可欠です。これらの課題をクリアすることで、「能動的サイバー防御」は国民の安全と自由を守るための有効な手段となり得るでしょう。

<語意>

能動的サイバー防御では、攻撃者のネットワークやシステムに侵入して不審な動きを監視したり、攻撃を検知して攻撃元のサーバーに侵入して無害化したりするなどの方法が考えられます。 

能動的サイバー防御の導入は、サイバー脅威が高度化・複雑化する中、従来の受動的な防御では限界があるため必要性が高まっています。 

 ソフトウェアやシステムのセキュリティ上の脆弱性を悪用して行われるサイバー攻撃です。

修正プログラムが提供される前の「0日目(Zero Day)」に攻撃するため、この名前が付けられました。

 複数のコンピューターから同時に攻撃目標に大量のアクセスやデータを送信することで、サービス提供を妨げるサイバー攻撃です。

DDoS攻撃では、攻撃対象のサーバーやネットワーク機器に大きな負荷がかかり、ウェブサイトへのアクセスができなくなったり、ネットワークの遅延が起こったりします。攻撃を受けた企業や組織は、金銭面だけでなく信用面でも大きなダメージを被る可能性があります。

 組織間の業務上のつながりを悪用して、セキュリティレベルの高い企業に侵入するサイバー攻撃手法です。

サプライチェーン攻撃の主な特徴は、標的企業に直接攻撃するのではなく、セキュリティ対策が不十分な取引先や子会社などを踏み台として攻撃する方法です。