私たちの食卓を守るために──いま、米を考えよう

2025年4月29日

 最近、スーパーで米の値段が「高いな」と感じた方も多いのではないでしょうか。
令和6年に起きた地震の影響をきっかけに、米の流通に混乱が起こり、一時的に店頭から米が消える事態もありました。
そしていま、米の価格は過去最高水準に達しています。家計を預かる皆さんにとって、米の値上がりは本当に深刻な問題だと思います。
 この米価の高騰の裏には、
儲けしか考えていない投機筋に流れていることにも、一因しているのは事実だと思います。この問題は、消費者の米離れにつながるので米生産者にとっても許し難い行為だと思われます。
米の投機筋への流れは、政府の方で断固とした対策を取っていただかねばなりません。

 しかし、この米価の高騰の背景には、投機筋への流れは別として、単なる「売り手の都合」や「一時的な異常」ではありません。
その背景には、長い年月のあいだ積み重なってきた、米農家の苦しい現実があるのです。

農家の苦しい現実

 日本の米農家は、ずっと厳しい経営を強いられてきました。
手間ひまをかけて育てた米も、JAなど卸売業者に安く買いたたかれるのが当たり前。
令和6年12月に、農水省が公表した令和5年米農家の年間農業所得は、わずか9.7万円、「時給」換算にすると97円と深刻な実態が浮かび、これでは、米作りを生業とする農家が生計を立てられるはずがありません。田んぼを守るどころか、米作りを続けることすら難しくなってきているのです。
小規模な米生産農家は、平日は働きに出て休日に農業をする、兼業農家をしないと生活ができないのです。

 米作りの基盤は崩れ、農家の苦境がうかがえます。 担い手は低米価、高齢化などにより年々激減し、不作付地は年々増加しています。
さらに、農業機械や肥料、農薬の価格も年々上昇しています。
最近では世界情勢の影響で、資材コストがさらに高騰しました。
それなのに、ずっと「安い米」を求め続けられたら──誰が米を作り続けられるでしょうか。

 米農家は、決して無意味な米価格の高騰を望んでいるわけではありません。
生産コストを償う価格・所得の実現、「米の適正価格」を求め、消費者に説明・理解を得て、さらに適正な流通コストが反映された消費者価格に一日も早くなるよう願っています。

 食料自給率38%と低迷している中で、国民の主食である米を守ることは、国土の保全、近年の国際情勢などから喫緊の課題ではないでしょうか。

「米が高い!」と思う前に、少しだけ想像してみてください

 1962年のサラリーマンの平均年収は37万円でした。
1962年(昭和37年)といえば、日本の高度経済成長の真っ盛りの年です。
2024年(令和6年)のサラリーマンの平均年収は460万円です。
サラリーマンの平均年収は、1962年から2024年までに10倍以上になっています、
1962年の米の店頭価格は5kgで490円でした。
2025年現在の米の価格に換算すると5kgで4900円以上に相当するのです。

 スーパーで米の値段を見たとき、「高すぎる!」と感じるのは無理もありません。
ですが、農家から見れば、今の米価は「ようやく生活できるかどうか」という、ギリギリのラインなのです。

しかも、米の生産体制は一度壊れると、すぐには元に戻りません。

昭和40年代から政府が推進してきた「減反政策」(米作りを控える政策)によって、多くの田んぼが荒れ、水漏れが起き、使えなくなってしまいました。
さらに、農家の高齢化や担い手不足も深刻です。
「米が足りないから増産しよう!」と思っても、もう簡単には作れない状況なのです。

つまり、私たちが今、米農家を支えなければ、
これから先、本当に米が手に入らない時代が来るかもしれないということです。

「適正な米価」を支えることは、私たちの未来を支えること

 米は、日本人の食卓に欠かせない存在です。
それだけに「できるだけ安く買いたい」という気持ちは当然あると思います。
でも、安さだけを求め続けた結果、農家が疲弊し、米作りが続かなくなったら──
将来、もっと大きなツケを私たち自身が払うことになります。

国産の米を安定して手に入れるためには、農家が安心して米を作れる環境を守らなければいけません。
そのためには、生産コストに見合った「適正な価格」で米を買うことが必要です。
これが、私たち消費者にできる一番身近な支援です。

また、東京大学の鈴木教授の主張のように、生産者に直接支払う所得補償方式を導入すれば、生産者には適正な価格を補償して消費者米価の上昇を抑えるメリットが、双方(生産者と消費者)に生まれると思うので、このような制度も有効でしょう。
こうした仕組みが整えば、農家の生活を守りながら、極端な米価の高騰も防ぐことができるのです。

「安さ」よりも「持続可能な安心」を選ぼう

 令和の米騒動は、単なる一過性の問題ではありません。
これは、日本の食と農業を守るために、私たち一人ひとりが行動を考えなければならない時代に入ったことを示しています。

今、スーパーで米を手に取ったとき、
「なんでこんなに高いんだろう」とだけ思うのではなく、
「これで日本の農家が頑張れるなら」と、ほんの少しだけ応援する気持ちを持ってみませんか。

その小さな意識が、日本の田んぼを守り、
未来の私たちの食卓を支えることにつながるのです。

まとめ

 私たちの食生活を守るために。
米の生産農家から私たち消費者が、中間マージンを省いた値段で、直接購入するのも良い方法かもしれません。生産者と直接つながりを持つことで、農家の苦労を知り、そして消費者の自衛策にもなるのではないでしょうか。
いま、米と、農家と、私たち自身の未来について、改めて考えてみましょう。