経営者の意識改革と技能実習制度の見直し

 2023年12月7日、中国新聞は衝撃的な記事を掲載した。2018年から2022年の5年間で、島根県で197人、鳥取県で185人の技能実習生が失踪しているというのだ。夢と希望を抱いて日本に渡ってきた彼らが、なぜこのような状況に陥ってしまうのか。その背景には、深刻な制度の課題と経営者の意識改革の必要性が浮かび上がります。

制度の矛盾と人権侵害の温床

 技能実習制度は、途上国の人材育成と日本の技術移転を目的とする制度だが、現状は人権侵害の温床と化している。

  • 低賃金・長時間労働: 技能実習生は最低賃金以下の賃金で働かされるケースも多く、長時間労働も問題視されている。
  • 監理団体による搾取: 一部の監理団体は、不当な手数料を徴収したり、パスポートを取り上げて行動を制限するなど、実習生を搾取している。
  • 劣悪な居住環境: 寮の環境が劣悪であったり、生活に必要な支援が不足しているケースも少なくない。
  • 技能習得機会の不足: 本来の目的である技能習得の機会が十分に与えられず、実習生が成長できないケースも存在する。

これらの問題に加え、失踪という最悪の事態を招く要因として、以下の点が挙げられる。

  • 転籍制限: 技能実習生は3年間同じ監理団体・受入機関のもとで働かなければならないため、虐待や不当な扱いを受けても逃げ場がない。
  • 日本語教育の不足: 日本語能力が不足していると、周囲とのコミュニケーションが難しく、孤立感や不安感から失踪してしまうケースもある。

これらの問題は、単に技能実習生個人にとっても深刻な問題であるだけでなく、日本の社会全体にとっても大きな損失となります。

経営者の意識改革

 技能実習制度は、人材育成と国際貢献を目的とした制度である。しかし、現状では制度の趣旨が十分に活かされているとは言い難い。

根本的な解決には、制度そのものの改革と、受け入れ企業側の意識改革が不可欠であると思います。

まず、経営者は技能実習生を「安い労働力」と捉えるのではなく、「将来のパートナー」として尊重する意識を持つべきだ。

  • 適正な賃金と労働環境: 最低賃金以上の賃金支払い、時間外労働の削減、安全衛生対策の徹底など、労働環境の改善は必須である。
  • 技能習得機会の確保: 実習計画に基づき、実習生が確実に技能を習得できる環境を整えなければならない。
  • 日本語教育の充実: 日本語能力の向上は、コミュニケーションの円滑化や社会への適応を促進し、失踪防止にもつながる。
  • 生活支援: 住居環境の整備、医療や生活相談へのアクセス確保など、生活面でのサポートも重要である。

これらの取り組みは、単に技能実習生のためだけでなく、企業の競争力向上にも繋がることと思われます。

技能実習制度の見直し

 制度自体の見直しも必要です。

  • 監理体制の強化: 監理団体や受入企業の監督を強化し、不適切な運営を行っている団体には厳正な措置を取る。
  • 技能実習生の権利保護: 技能実習生が安心して生活・働けるよう、法的な保護を強化する。
  • 制度の透明性向上: 制度内容や手続きを分かりやすく説明し、実習生が安心して利用できるようする。

未来への責任

 技能実習制度は、日本の未来を担う人材育成と国際貢献に不可欠な制度です。しかし、現状のままでは制度の存続が危ぶまれるだけでなく、人権侵害の問題も解決されない。

今こそ、経営者一人一人が意識改革を図り、制度の改善に積極的に取り組むべき時であると思います。

行動を起こす時

 零細企業だから、地方の企業だから言う甘い考えを捨て、真摯な姿勢で技能実習制度と向き合うことが、日本の未来を担う経営者の責任であると思います。

以下は、経営者や政府が取り組むべき具体的な提案です。

  • 経営者向け研修の実施: 技能実習制度に関する理解を深め、適切な運営方法を習得できる研修を実施する。
  • モデル企業の育成: 技能実習制度を適切に運用している企業をモデルケースとして紹介し、他の企業の参考となるような事例を共有する。
  • 外国人材の受け入れに関するコンサルティングサービスの提供: 技能実習制度に関する専門的な知識を持つコンサルタントによる支援を提供する。
  • 技能実習生の日本語教育の充実: 実習生が生活や仕事に必要な日本語を習得できるよう、教育プログラムを充実させる。
  • 技能実習生のキャリアパス形成支援: 実習終了後のキャリアプランニングや就職活動の支援を行う。
  • 技能実習制度に関する情報発信の強化: 制度内容や手続きに関する情報を分かりやすく多言語で発信し、実習生が安心して利用できるようする。

まとめ

 このような中にあって、政府の有識者会議は、2023年11月30日、いろいろ問題のある技能実習制度を廃止して新たに「育成就労制度」を導入したようですが、改革というにはまだ程遠い内容になっています。 育成就労制度は、日本にとっても送り出し国にとっても大きな可能性を秘めているはずです。しかし、その可能性を実現するためには、制度のさらなる改善と経営者の意識改革が不可欠になります。

今こそ、真摯な姿勢で課題に向き合い、未来への責任を果たす時ではないでしょうか。

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Posted by Ka Shiba