大阪大などのチームが、「胃カメラ検査」をしながら、早期発見が難しい「すい臓がん」を診断する方法を開発!

膵がんは「沈黙の臓器」とも称される膵臓に発生する悪性腫瘍であり、早期発見が極めて困難な疾患の一つです。国立がん研究センターの統計によると、膵がんの5年生存率は約13%と低く、診断時には既に進行しているケースが多いとされます。そのため、早期発見の技術開発は膵がん治療の鍵を握っていると言っても過言ではありません。
そんな中、大阪大学などの研究チームが開発した新たな診断法が大きな注目を集めています。この方法は、通常の胃カメラ検査に1~2分追加するだけで実施可能であり、膵がんの早期発見を高精度で行える可能性を秘めているものです。
◎画期的な診断法の仕組み
従来の膵がん診断は、CTやMRI、腫瘍マーカー(CA19-9)などを活用して行われてきました。しかし、これらの方法では、膵がんがある程度進行しなければ検出が難しいのが現状でした。一方、大阪大学のチームが開発した新技術では、胃カメラを用いた検査の際に、膵液の分泌を促す薬を静脈注射し、十二指腸の膵管出口付近を特殊なカテーテルで洗浄、その回収液のDNAから、ほとんどの膵がんで見つかる 「KRAS」という遺伝子の変異数を調べることで診断を行います。
この方法の特筆すべき点は、健康な人と手術可能な早期の膵がん患者を比較したところ、患者が陽性になる割合(感度)が80.9%、健康な人が陰性になる割合(特異度)が100%と、高精度の診断が可能であることが確認された点にあります。これは、従来の診断法に比べて大幅に精度が向上しているようです。
◎実用化に向けた期待
この診断法が普及すれば、膵がんの早期発見率が大幅に向上し、生存率の向上が期待されます。特に、膵がんのリスクが高いとされる家族歴のある人や、高齢者、糖尿病患者に対して定期的に実施することで、進行前の段階で膵がんを発見する機会が増えるだろうと期待されています。
また、既存の胃カメラ検査に組み込む形で実施できるため、新たに特殊な機器を導入する必要がない点も大きなメリットであります。日本では胃がん検診として胃カメラ検査を受ける機会が多く、この診断法が標準化されれば、膵がんのスクリーニングがより身近なものとなる可能性があるでしょう。
さらに、診断の負担が軽減される点も見逃せません。膵液を直接採取する従来の方法(内視鏡的逆行性膵管造影法:ERCP)は、膵炎などのリスクを伴いますが、新技術ではそのような負担が少なく、安全性の面でも優れていると言えます。
◎実用化への課題
しかし、実用化に向けては幾つかの課題があります。
まず、現時点では研究段階であり、より大規模な臨床試験を通じて再現性や精度を確認する必要があります。今回の研究では9施設での臨床研究が行われましたが、より多くの症例を解析し、さまざまな条件下での有効性を検証しなければなりません。
次に、KRAS遺伝子の変異を指標とする診断法の限界も考慮する必要があるでしょう。KRAS変異は膵がんの多くに見られますが、すべての膵がんで検出されるわけではありません。そのため、KRAS変異に依存しない追加のバイオマーカーの開発や組み合わせ診断の検討が求められるでしょう。
さらに、この新技術の普及にはコストの問題も関わってきます。胃カメラ検査自体は保険適用されていますが、この診断法が健康保険制度の中でどのように位置づけられるかが鍵となります。費用対効果の検証を行い、一般の医療機関で広く導入できる価格設定を実現することが不可欠であると思います。
◎今後の展望
大阪大学の研究チームは、5年後の実用化を目指してさらなる研究を進めています。膵がんの早期発見が可能になれば、外科的手術や化学療法などの治療がより有効に行えるようになり、患者の生存率向上につながります。
また、今後はAI技術を活用した画像解析や、多因子解析による診断精度向上の研究も進められるでしょう。たとえば、遺伝子変異のデータをAIが解析し、膵がんのリスクを個別に評価するシステムが開発されれば、より正確で迅速な診断が可能になると思います。
◎まとめ
胃カメラを活用した新たな膵がん診断法は、簡便かつ高精度な方法として、大きな期待を集めています。従来の診断法では困難だった早期発見が可能となることで、膵がんの克服に向けた大きな一歩となることは間違いないと思います。
一方で、臨床試験の継続、追加バイオマーカーの開発、コスト面の調整など、実用化にはまだいくつかの課題が残されています。これらの課題を克服し、早期発見の精度をさらに向上させることで、将来的には膵がんの診断がより一般的なものとなり、多くの命が救われる日が来ることを、大いに期待したいと思います。
<語意>
◯KRAS(ケーラス)遺伝子は、
細胞の増殖を調節するタンパク質で、がんの発生や進行に関与する遺伝子です。
【KRAS遺伝子の役割】
- 細胞膜に存在する受容体型チロシンキナーゼにリガンドが結合すると活性型に変化し、細胞の増殖を調節する
- 正常なときは体の必要に応じてオン(活性化)・オフ(不活化)が切り替わる
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