外国人の永住資格取消し制度強化の課題と展望

 2024年、国会では入管難民法改正案が審議中であり、永住者の在留資格取消し制度の強化が焦点の一つとなっています。

改正案は、技能実習制度を育成就労制度に転換し、永住可能な特定技能につなげる条文も含間れています。これにより永住者が増えると予想されるため、取り消し制度を強化するというものです。

改正案では永住者が、

1. 法令違反

2. 公租公課の不払い

3. 軽微な犯罪

などで永住資格を取り消される可能性があります。

ここでは、上記3つの指摘を踏まえ、外国人永住資格取消し制度強化について、課題を考察してみたいと思います。

1. 人手不足と共生社会の実現、及び外国人労働者の役割

 近年、日本社会は深刻な人手不足に直面しており、特に建設業、介護業、製造業などの分野で人材不足が顕著です。この問題を解決するためには、外国人労働者の積極的な受け入れが不可欠です。

しかし、永住資格取消し制度強化は、外国人労働者の不安を高め、日本への移住意欲を低下させる可能性があります。人手不足解消に向けた外国人労働者の受け入れ拡大と、共生社会の実現という目標は、密接に関係しており、永住資格取消し制度強化は、この目標達成を阻害する可能性があります。

一方、永住資格取得を容易にすることで、より多くの優秀な人材を日本に呼び込み、人手不足解消に貢献することが期待できます。また、外国人労働者が安心して日本で働き、生活できる環境を整えることは、共生社会の実現に向けても重要です。

永住資格取消し制度強化は、短期的な視点で法令遵守や公序良俗の維持を図るという目的はあるものの、長期的な視点で日本社会の活性化と共生社会の実現という目標を達成するためには、外国人労働者の受け入れ環境の改善と、相互理解の促進に重点を置くべきではないでしょうか。

2. 公租公課の滞納に対する、差し押さえや追徴金による徴収

 故意に公租公課を支払わない行為は、決して許されるものではありません。

しかし、永住資格取消しという厳しい処分を科す前に、差し押さえや追徴金などの措置によって滞納金を徴収する方が有効ではないでしょうか。

永住資格取消しは、本人だけでなく家族の生活にも大きな影響を与える重大な処分です。滞納額や悪質性などを考慮した段階的な制裁措置を設けることで、本人に納税の責任を自覚させ、再犯防止を図ることが重要です。

また、滞納の原因が経済的な困窮にある場合、生活保護などの公的支援制度を活用できるよう行政機関が適切な情報を提供し、支援を行うことも必要です。

3. 軽微な犯罪に対する、更生機会の保障と社会復帰の支援

 軽微な犯罪で刑罰を受けた外国人であっても、日本社会で更生し、社会の一員として貢献することは十分に可能です。永住資格取消しという厳しい処分は、更生への道を閉ざし、再犯を招く可能性さえあります。

軽微な犯罪の場合には、執行猶予付き判決や罰金刑など、永住資格取消し以外の処分を検討すべきです。また、刑期を終えた外国人に対しては、日本語教育や職業訓練などの支援プログラムを提供し、社会復帰をサポートすることが重要です。

再犯防止に向けた更生プログラムの実施や、社会復帰支援体制の充実こそが、犯罪抑止と社会全体の安全確保につながるのではないでしょうか。

4. 多様な価値観と寛容な社会の実現

 日本社会は、急速な少子高齢化とグローバル化の影響を受け、多様な価値観を持つ人々が共存する時代を迎えています。外国人に対する偏見や差別は、共生社会の実現を阻害する大きな障壁となります。

永住資格取消し制度強化は、外国人に対する不寛容な社会を助長し、さらなる分断を生み出す可能性があります。多様な文化や価値観を受け入れ、互いに尊重し合う寛容な社会を実現するためには、外国人に対する理解と共感を促進することが不可欠です。

外国人に対する教育プログラムの充実や、交流イベントの開催など、相互理解を深めるための取り組みを積極的に推進していく必要があります。

5. 今後の課題

  • 永住資格取消し制度の運用状況を厳正に監視し、必要に応じて見直しを行う。
  • 外国人コミュニティとの連携を強化し、制度に関する意見を積極的に取り入れる。
  • 制度の施行に関する情報発信を徹底し、外国人住民への理解と協力を得る。

まとめ

 外国人永住資格取消し制度強化は、法令遵守や公序良俗の維持という目的を達成しようとするものではあるものの、人手不足解消、共生社会の実現、更生支援、寛容な社会の実現という観点から見ると、多くの課題を抱えています。

外国人永住資格取消し制度強化は、日本社会の未来を左右する重要な課題です。関係者全員が責任を持って議論を深め、より良い制度設計を目指していくことが求められます。

永住資格取消し制度強化と同時に、外国人労働者の受け入れ拡大、共生社会の実現に向けた取り組みを積極的に推進していくべきです。政府、自治体、民間事業者、市民社会が協力し、多様な価値観を持つ人々が安心して暮らせる、活力ある社会を築いていきたいものです。